百色なもの File.03 [1/2] 2018.03.30
ゆっくり歩いて
五感でみつける自然 前編
季節のさんぽ道 │ 奥井かおりさん
奥井さんの木の実コレクションの一部
兵庫県三田市にあるJR新三田駅の前に集合した私たちはここから目的地の有馬富士自然学習センターまでの遊歩道を歩きます。ガイドは同施設職員でコミュニケーターの奥井かおりさん。春めきだした2月末の午後、空気をめいっぱい吸い込んで、さあ出発です。
名前を覚えると景色が変わる
「さんぽにもちょっとコツがあって。先頭を歩くとみんなより先に気づけるんです。とくに動物。いつも私は双眼鏡を片手に散歩しています。あ、待って。セグロセキレイがいますよ。」
奥井さんがなにか面白そうなものを発見すると、会話は一時中断。私たちもセグロセキレイのピチピチという声に耳をすまします。
「生き物の名前を覚えると、知っている人に再会したような気持ちになりませんか。単に“鳥”じゃなくて、あれがセグロセキレイだと知っていると、この道は“セグロセキレイに会う道”と認識できるようになる。それだけで、ちょっぴり景色が変わって見えませんか。」
奥井さんは芸術大学を卒業後、広告代理店勤務を経て、大学院で植物の研究を始めたという異色の経歴の持ち主。
「私は街育ちで、大人になってから自然の勉強をしたので、こんなに素敵なものが身の回りにあったのに、これまでなんで知らずに生きてきたんだろうって。それくらい衝撃でした。」
散歩しながら「宝」さがし
「実は、昨日また驚きがあって。ちょうどこの場所。頭上でパチンパチンって音がしたんです。ここにたくさん落ちている実、なんだかわかりますか。」
と奥井さんに促され足元を見渡すと、黒の碁石のような、丸くて平たい実がたくさん落ちています。そばには、らせん状にねじれた木の皮のようなものもちらほら。
「これ、藤の種なんです。そのねじれているのは藤のサヤ。たぶん乾燥が引き金になって、サヤがねじれ、中身の種が飛び出したんだと思います。パチンパチンというのはサヤがはじけた音だったんですよね。ところで、この種、なぜこの形だと思いますか。これ軽いでしょ。フリスビーみたいに飛べて、着地したときに転がる。水にも浮かぶ。そうやって種を遠くまで運ぶという種の戦略なんじゃないかなって。ちゃんと実験して検証してみないとわからないのですけどね。」
そう言われると、普段だったら見過ごしてしまいそうなこの種が、宝もののように思えてきて一緒に拾い集めてしまいました。昨日、パチンとはじけたから、今日偶然にも出会えた種なのです。
「種って戦略がたくさんあるんですよ。たとえばどんぐり。ネズミやリスが後で食べるためにどんぐりを土の中に隠すんだけれど、埋めた当人がそれを忘れちゃうことがあって。動物の忘れるっていう機能がどんぐりの発芽に影響しているのってなんだかかわいいですよね(笑)」
自然の楽しさを同じ目線で
話を聞くうちに、目の前にある自然への興味がどんどん増して、ついつい奥井さんを質問攻めにしてしまいます。
「あの黄色い花はマンサク。かわいいですよね。見上げないと気づかない。これはハンノキかな。タカノツメとか甘い匂いのする葉っぱもありますよ。是非近づいてかいでみてください。」
こんな風に寄り道をするのでなかなか進みません。普通に歩けば30分の散歩道を奥井さんは1時間かけて歩くそう。この遊歩道は彼女の通勤路でもあります。
「ここを歩くとめっちゃ忙しいの(笑)見るところがいっぱいあって。来るたびに違う発見があるんですよね。天気も違うし、動物も運だし。ね、幸せな通勤路でしょ?」
なんでも教えてくれるので、ついつい「先生!」と呼びたくなるけれど、「先生じゃないんですよ(笑)」と断る奥井さん。彼女の肩書であるコミュニケーターってどんな仕事なんでしょう。
「教えるっていうより、お客さんや子どもたちと同じ目線でコミュニケーションしながら
自然の楽しさを共有するのがコミュニケーターの仕事なのかなって思います。研究者の先生に教わったことを翻訳して伝えていく、みたいな。子どもたちはちゃんと伝えれば全部わかりますよ。見分け方を伝えたら、見事に何種類ものどんぐりを見分けられるようになったこともありました。」
案内してくれた人
奥井かおり
大阪府出身。京都造形芸術大学情報デザイン学科を卒業後、広告代理店勤務を経てメルボルンにてガーデニングを学ぶ。帰国後、兵庫県立大学大学院(緑環境景観マネジメント研究科)修了。東京大学大学院での研究員を経て2016年より三田市有馬富士自然学習センターのコミュニケーターとして勤務。好きな植物は「カツラ」。
案内してくれた場所
歩いたさんぽ道(JR新三田駅から有馬富士公園まで)
キッピー山のラボ(三田市有馬富士自然学習センター)
開館時間:9:00~17:00
休館日:毎週月曜(月曜祝日の場合は翌日)、年末年始
兵庫県三田市福島1091-2(兵庫県立 有馬富士公園内)
JR新三田駅から徒歩 約30分
駐車場500台(無料)
[Facebook]https://www.facebook.com/kuwagata.tuyoshi/