百色日記 百色日記 SANPO

百色なもの File.05 2018.10.18

シンプルでいてなにひとつ同じでない海の色

仕事の合間に向かうサーフィン │ スタイリスト 安竹一未さん

「GLOW」などのファッション誌やカタログ、広告にて活躍する人気スタイリストの安竹 一未さん。変化の激しい仕事の合間に向かうのは都心から1時間半ほど離れた海。サーフィンを始めて、周りから「優しい顔になった」と言われるように。安竹さんを魅了してやまないサーフィンとは?その魅力をたっぷり伺いました。

やりたいことがはっきりしていた10代

―昔からファッションに興味を?

子どもの頃から服が好きで好きで。中学生では「Olive」、高校では「CUTiE」をずっと読んでいました。私服通学だった高校時代は、周りからどう思われるかより、とにかく自分がカワイイと思うものを着ていましたね。そんなこともあり高校の同級生から勧められて、進路を決めるときには「スタイリスト」の道を志望。きっとやりたいことがはっきりしていたんでしょうね。そして専門学校のスタイリスト科に進学。そこでやっと服やファッションの話が合う人に出会えた!と思いました。その頃はシンプルなスタイルが流行していたので、それに合わせてA.P.C.やZUCCaを着ていました。もちろん自分の中での「カワイイ」もあるんですが、トレンドや流れに乗るのも好きだったんですよね。私、服を見るのがすごい好きなんです。どれだけ見ていても疲れる感覚がない。今でもやっぱり、服って楽しいなと思いますね。

大好きなはずの仕事なのに動けなくなった30代

―やりたいことを仕事に出来ているってうらやましく感じるのですが

この業界は常に「先に先に」と行かなきゃいけない。仕事の内容自体は変わらず好きだったのですが、20歳くらいからずっと不規則な生活で、電車で帰られると思えば終電。1時間寝るかお風呂に入るかの選択を迫られるようなこともしばしば。いつも何かに追われている感じでした。仕事自体は楽しいから受けてしまうんだけど、そういう生活が重なって…。30代後半で結構キツくなり、あと1年で40歳という時に、もしここで止まらなかったらこれが40代でも続いていくのかと思うとこれは無理だなと。その当時は疲れすぎて、駅のベンチに座り込んでしばらく動けなかったり、あんなに仕事が好きだったのに辞めたいと考えるくらいに。大好きな仕事が嫌いになりそうでつらかった。かなり限界を感じていた30代後半の頃に、出会ったのがサーフィンでした。

ひとつとして同じ表情のない海に魅了される

―サーフィンをはじめたきっかけは?

実はあんまり泳げないんですけど(苦笑)まわりにサーフィンをやっている人が多くて、ずっとやってみたいと思っていたんです。最初はボードもウェットスーツも持っていない。友達と小旅行にいく感覚で、ただただ体験しにあちこちの海に行っていました。始めたばかりの頃は1時間も海に入っていられなくて。まさか続けるとは思っていませんでしたが、サーフィンのスクールに通うようになって、出来ないことが出来るようになるのが楽しくって。この歳になって新しい何かを習うって面白いじゃないですか。

 

―どんなところに夢中に?

出来ないし、怖いし。すごく集中するんです。海に入ったらすべてを忘れられる。空っぽになれるんですかね。それから、海って毎回コンディションが違うんです。入るポイントで質も違う。一度来た波には、もう二度と会えない。ひとつとして同じものがない波だから、「あ、波が出てきた!」と夢中になりますね。そういう、変化するものが好きなのかもしれません。海に入るとすべてを忘れられて、他のことが気にならなくなります。それと、サーフィンはスポーツだから、出来ないことがひとつずつ出来るようになるとうれしい。波に乗れた瞬間はやっぱり楽しくて、「もう一回!もう一回!」って思います。もっと成長したいし、できることを増やしていきたい。でも、ひとつできるようになっても、ひとつできなくなることもあるから、ぜんぜんうまくならない(笑)到着するところがない、だからずっと続けたくなるのかなと感じます。

自分の色はぶらさずに

―ファッションもサーフィンに影響を受けました?

サーフカルチャーも好きです。ファッションも、今より20歳若かったら、いわゆるサーフスタイルをしていたかも。だけど、いろんなスタイルを今まで散々試してきて、自分に似合うものも似合わないものもわかるし、個人的にはシンプルなもの、色があまり派手ではないものが好き。好きな色は黒で、自分に一番似合う色だと思っています。なので、私は海だからといってカラフルなスタイルにはしたくなくて、例えば、海にそのまま入れるように今日は黒のG-SHOCKですが、仕事の時は仕事用の時計につけかえます。そこはわけていますね。今自分の選ぶスタイルは、量より質。若いころたくさん経験したからこそ、今は削ぎ落として削ぎ落として、要らないものを省いて、大事なものだけをピックアップできるようになったと思います。

 

―サーフボードもシックで素敵ですね

ポップな色の組み合わせや派手な色のものが好きではないので、ヌードベージュに近い、シックなニュアンスカラーをオーダーしました。海だからと言っていわゆる海のスタイルでなくていいと思うんです。水着は落ち着いた色合いが魅力の「TAARA clothing」やカルフォルニア発の「Seea」のものを。ウェットスーツは基本的に黒をベースにオーダー。海でも、いつもの自分のスタイルでいたいんです。

そのシンプルさに浄化される

―サーフィンをするようになって訪れた変化は?

周囲から顔つきが優しくなったねと言われるようになりました。まわりも気づくくらいの深いため息をよくついていたり、いつもカリカリしていていたのも減りました。考え方が変わってきたというか。「まぁいいか」と思えたり、気にならなくなりましたね。ものごとを柔軟に捉えられるようになったのかもしれません。海の中ですべてを忘れて空っぽになれるからか、「海に浄化されたんじゃない?」って言われたこともあります。本当にそうなのかも。不思議と気持ちが穏やかになりましたね。

Interview&Text:TEEMA, INC.(Yoko Okazaki・Yumi Iwasaki)
Photos:Satoru Nakano
Design:MATO INC.

INTERVIEWEE

安竹一未さん | スタイリスト

東京都出身。1998年スタイリスト独立。雑誌「GLOW」「大人のおしゃれ手帖」やカタログ、広告などで実績多数。シンプルで上品なスタイリングが得意。趣味はサーフィンのほか、フラワーアレンジメントも。

PLACE

HALE Surf&Sail

http://www.vsurf.net
神奈川県鎌倉市腰越3-11-12石川ビル1階
0467-32-7766

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