百色日記 百色日記 SANPO

百色なもの File.06 2018.11.14

巡り、遡り、辿り着く景色

小平篤乃生個展「烏巡り/CROW CYCLE」 │ アーティスト 小平篤乃生さん

2018年冬、広島県廿日市市にあるアートギャラリーミヤウチ(以下、ミヤウチ)にて、フランスを拠点に活躍するメディアアーティスト、小平篤乃生さんの個展「烏巡り / CROW CYCLE」が開催されます。作品インストール中の会場におじゃまし、一足先に空間を体験させていただきながら、作品の源泉である宮島や熊野でのフィールドワーク、追い続けているテーマについて伺いました。

寿司屋の父のすすめで海外留学へ

―14歳から海外で過ごした小平さん。留学のきっかけは?

実家が広島で寿司屋をやっているんですが、店に外国人のお客さんがけっこう来るんです。英語を話せない父いわく、「これからの時代は英語だ」と。そういうわけでツテを頼り、複数の公用語のため英語を共通語として多用するスイスに留学しました。最初の頃は苦労しましたが、少しずつ英語を習得していって、でもやっぱりネイティブのようにはいかなくて。そんな時、言語ではないアートの授業に面白さを感じたんです。アートとの関係は言葉がなくても成立する。アートは言葉に代わる表現方法だと気づいたんです。

 

―そのままアートの世界へ?

いえ、ファッションを勉強しにパリへ。本当はアートをやりたかったけれど、アートじゃ食べていけないと周りから聞いていたので、アートより仕事になりそうで、興味もあったファッションを学ぶことに。でも当たりまえだけれど、ファッションは服でしか表現できないんですよね。表現に制限のないアートへの想いが強まり、ファッションから転向、ボザール(パリ国立高等美術大学)に入学しました。それが20歳くらいの頃かな。ボザールでは彫刻家のジュゼッペ・ペノーネが私のメンターでした。彼はとても印象の強いアーティストなので、わかりやすく影響を受ける学生が多かったのですが、私は彼のコピー版はつくりたくなかった。だから彫刻とは真反対のメディアアートに取り組みました。ボザール卒業後はメディアアートの専門大学院へ。そして大学院を卒業した翌年の2011年、3月11日に東日本大震災が起きたんです。

メディアアートとエネルギーの関係

―3.11から感じたことは?

日本で大変なことが起きているのに、自分はフランスにいて、何もできないのがもどかしかった。そして原発事故や停電、節電のニュースを見ていて気づいたんです。自分のメディアアートは電気がなければ成立しないものだと。自分の作品における「電気」の持つ意味を考えざるをえませんでした。この気づきをスタート地点に、電気を含むさまざまなエネルギー、さらには霊的なエネルギーまで関心が高まり、現在に至るまでそれらを作品化する方法を模索しつづけています。今回の展示もこのテーマの延長線上にあるものです。たとえばギャラリー2階に展示されている石炭の顕微鏡写真。石炭は言わずもがな、燃料エネルギーです。写真の被写体となった石炭はフランス北部の炭鉱の街で出会ったもの。これを特殊な顕微鏡で見たら、「景色」に見えて。崩壊後の地球のような、別の惑星の地表のような…そんな「景色」。その景色をさがす旅を「石炭の巡礼」と名付けました。

「石炭プリント」を実現するための長い旅

―この写真はプリント手法が特殊だとか

石炭のインクでプリントしているんです。つまり石炭でプリントされた石炭の写真。この写真の表面を顕微鏡で見たら、また同じ石炭の「景色」が見られるかなと思って。でもこのプリントのアイデア、実現までが大変で。当然、石炭インクの印刷工場なんてありません。いろいろ調べて、世界で日本とドイツにしか残っていない「コロタイププリント」という昔からの技法なら実現できそうだということがわかり、その技術をもつ京都のアトリエへ行ったんです。そこで、「インクさえ持ってきたら印刷できる」と言われて、大阪のインク工場へ。そこで今度は「原料となる石炭をもってきてくれたらインクをつくれる」と言われ…。

 

―次はどちらへ(笑)

(笑)奈良です。奈良で無事、石炭の原料となる煤(すす)を入手、大阪の工場で石炭インクをつくり、京都でプリントして…ようやく完成しました。日本とフランスを行き来しながらだったこともあり、気づけば約2年の歳月が過ぎていました。奈良で入手した煤は実はJRの機関車から廃棄物として出たもの。その昔、煤は山林の木を燃やすことでつくられていたのですが、今は煙が公害になるからということで植物性油を使った現代的な方法で生産されています。石炭インクの原料となる機関車の煤を手に入れるという目的は果たしたものの、かねてより地場産業や自然崇拝のありかたに関心のあった私はさらに煤のルーツをたどるべく、昔、木を燃やして煤を作っていたという熊野を訪ね、フィールドリサーチを重ねました。熊野と言えば、熊野大社へ向かう参道=熊野古道が有名です。熊野はまさに巡礼の地。今回の展示では熊野古道で偶然拾った鹿の骨の作品も展示しています。

 

宮島の力を借りて生み出す花器

―同時期、広島の宮島でも作品制作されていますね

神の島である宮島での制作は作家であれば取り組みたいテーマではないでしょうか。今回は宮島の伐採木やゴミなどの廃棄物を燃やして焼きものをつくるというアイデアを形にしました。この焼きものをつくるための原料、燃料、手法…そのすべてを宮島で結合させたいと専門家の協力のもと、さまざまな検討をしました。通常、焼きものの原料は粘土ですが、宮島では粘土が取れないため、宮島の砂を使用。宮島を形成する花崗岩が風化し、崩れて浜に蓄積されたものが砂となるのです。その砂を、宮島でうまれた廃棄物を焼却する熱で溶かし、焼きもの=花器を成形します。長い時間をかけて風化され砂となった花崗岩が、花器という形を借りて、ふたたび花崗岩に還るんです。

 

―その花器はどこへ?

宮島でつくられた花器は、その内部に宮島のエネルギーをたたえています。そのエネルギーを花器にとどめる儀式として厳島神社で献花を行います。今回、献花をしていただく花士(はなのふ)の珠寳さんは京都・銀閣寺の花方を務めていたかた。世界中で献花やいけばなをされているので、今後は彼女に花器を託し、世界各地で花を生けていただく予定です。また宮島を有する廿日市市とフランスの「修道院の島」モンサンミッシェルは姉妹都市。ゆくゆくはモンサンミッシェルでも宮島の花器で献花できたら…、さらにはモンサンミッシェルの砂で花器がつくれたら…と想像はふくらみます(笑)

烏がつなぐ熊野と宮島

―ミヤウチでの展示は「烏(カラス)」がテーマ。なぜ烏?

ほぼ同時期に、熊野と宮島でフィールドワークしていて。ミヤウチで展示をするにあたって、この2つの土地をつなぐものをテーマにできないかとリサーチを重ねていたところ、どちらにも烏が巡るという伝承があることがわかったんです。熊野にはそのシンボルでもある導きの神、八咫烏(やたがらす)が。一方、厳島神社の起源をさかのぼってみると、神の鎮座すべき場所を導くものが烏だったのです。このふたつの土地を巡る烏の伝承を自然循環の象徴に見立て、熊野と宮島をつなぎとめるハブとしての烏をテーマに展示の構成を考えました。今回展示する新作の映像作品は烏の伝承を追体験しようとするものです。飛行中の烏の視点を再現する映像や、烏を追いかける映像をドローンで撮影しました。

作品はフィールドワークの副産物

―映像を拝見して、自分が烏になったような不思議な気分になりました

これは高度なドローン撮影技術と烏の生態への深い理解が求められる難しい撮影で、とてもひとりではできないので専門家に協力していただきました。彼らとともに撮影しながら、あるいは撮影地の宮島に滞在生活しながら、烏を知り、学び、烏についての考えを深めていき、それを作品化する。私の場合、こういう作品をつくろうと決めてそのための材料を集めるのではなく、まずフィールドワークがあって、やっていくうちに得られる副産物が結果的に作品になるという制作スタイルなんです。とはいえ、背景にあるフィールドワークの詳細を知らなくてもわかるような作品制作、展示構成を心がけているので、まずは前書きなしに、目の前にあるものを見て、音を聞いて。展示空間全体を感じていただければと思います。

Interview&Text:TEEMA, INC.(Yoko Okazaki・Yumi Iwasaki)
Photos:Tatsuya Tabii
Design:MATO INC.

INTERVIEWEE

小平篤乃生さん | アーティスト

1979年広島に生まれ、青年期をスイスで過ごす。パリ国立高等美術大学時代にジュゼッペ・ペノーネ氏に師事し、ル・フレノア国立現代アートスタジオでメディアアートを習得。2011年にエルメス財団によるアーティストインレジデンスに参加、2012年には文化庁海外研修生として音の研究を行い、現在は、フランスを拠点にヨーロッパでさまざまなプロジェクトに参加、活動している。主な個展に、「Seek hope, who enter here」(The Chimney、ニューヨーク、2018)、「Carbon Variation N°1」(ユミコチバアソシエイツ、東京、2017)、「Coalscape 石炭のインキ」(KG+、京都、2017)、「Outretemps」(Galerie Maubert、パリ、2016)、「Ouverture de Bombyx Mori」(ヨーロッパ写真美術館、パリ、2013)など。

展覧会概要

小平篤乃生 | 烏巡り

KOHIRA Atsunobu: CROW CYCLE
会期:2018年11月3日|土・祝|- 2019年1月14日 |月・祝|
開館時間:11:00 – 18:00(最終入館は17:30)
会場:アートギャラリー ミヤウチ(広島県廿日市市宮内字高通4347番地2)
休館日:火・水曜日、12/30-1/3(但し11/14はイベントのため開館)
観覧料:500円(400円)
( )内は学生、10名以上の団体料金。高校生以下または18歳未満・各種障害者手帳をお持ちの方は無料
http://miyauchiaf.or.jp/agm/exhibition_kohira.html
Instagram:@artgallerymiyauchi

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