百色なひと File.04 [2/2] 2018.04.28
季節のごはんに祈りを込めて 後編
大塩あゆ美さん │ 料理家
おいしいと思うものを信じて出し続ける
―いい仕事が次の仕事を呼ぶんですね
仕事が無いとき、泣きながら実家に電話をしたら、母が「自分がおいしいと思うものだけを出しなさい。そうすれば仕事がついてくる」と言ってくれて。だから、自分がおいしいと思うものを出し続けたんです。そしたら本当に仕事がついてきた。私がおいしいと思うものはそのときの旬のもの。手に入りにくいものを無理に使うのではなく、自然に無理なく手に入るものを生かしたい。食材の美味しさをそのまま伝えられる料理を心がけています。実は私、子どもの頃は食べ物の好き嫌いが激しかったんですが、料理の仕事を始めてからはすっかり好き嫌いがなくなったんですよね。それはきっとその瞬間に一番おいしい新鮮な食材を知ったからだと思っています。
―どんな想いで料理を?
「ごはんは祈りだ」と言った人がいて。すごくいい言葉だなって。ごはんって「元気でいてほしい」とか「今日も1日がんばってほしい」とか、それを食べる人への想いが込められているもの。私も料理をするときには、辛いときにふと私の料理を思い出してもらえたら…と、そういう想いを込めてつくっています。もちろん、作り手の想いを押し付けるつもりはないけれど、言葉で表現することはとても大切だと思うから、毎日誰かにお弁当をつくってもらっている人は「ありがとう」をぜひ伝えてほしいです。つい先日のことですが、昔から私の料理を食べてくれているお客さんに「大塩さんのごはんが好きだからね」って言われて、それだけで、一生この仕事をやっていこうと思ってしまったんですよ。あれは嬉しかったな。
今いる場所の豊かさを見つけて
―今後やってみたいことは?
「場所」がほしいですね。食材に近い場所。おいしいものが食べられる場所。故郷の伊豆もいいですね。でも田舎が一番かというとそういうことでもなくて、東京には東京のいいところがある。たとえば家を出て30分後には目の前に一流の写真や絵画がある、みたいな都市の豊かさもありますよね。どの場所が一番、ではなくて、大事なのは自分のいる場所の豊かさを見つけることなのかもしれませんよね。
―やりたくないこともはっきりしていますか?
どんなに大きな仕事でも、なんのためになるのかわからないものは受けないつもりです。反対にどんなに小さくても、一緒に仕事をしてくれる人やそこに関わってくれる人が幸せになってくれるような、楽しいと感じてくれるような仕事をたくさんしていきたい。そんな前向きな連鎖反応が自分の近くにいる大切な人たちからつぎつぎに生まれていくといいですよね。やりたいこと/やりたくないことの軸は直感です。理屈じゃない。楽しいかどうかは自分で判断します。不安でも、楽しそう!とピンときたらやるって決めています。
楽しいことは日々妄想、想いは言葉に
―でも失敗するのは怖くない?
まず、最初の一歩を踏み出すのが大切だと思います。とりあえず行動してみる。失敗したらその時はその時で、また立ち上がって前に進めばいい。実際に私、めちゃくちゃ失敗していますから。しかも大失敗(苦笑)でもそこからが学びです。それに口に出しちゃうと結構なんとかなるものですよ。反対に、思っていないことを言わないのも大事。人のいいところを見つけて口に出すのもいいですね。どんなに嫌な人でもいいところを探してみる。それいいねって口に出してみる。私、基本的にプラス思考なんです。こんなことあったらいいなとかこんな人に会いたいなとか、楽しいことを日々妄想しているんです。最近だとマツコ・デラックスさんにケータリングしたいなとか、伊集院光さんのラジオにゲストで呼ばれてトークしたいなとか。こうやって「会いたい」って繰り返し言っていると、不思議と会えちゃうんじゃないかなって思っています。
INTERVIEWEE
大塩あゆ美 | 料理家
出張料理「あゆみ食堂」 として季節ごとの旬の食材を使ったケータリングを提供。楽しい食卓を作りたいと日々奮闘中。著書に「あゆみ食堂のお弁当 23人の手紙からうまれたレシピ」(文化出版局)
http://ayumi-shokudo.tumblr.com/
Instagram:@ayumishokudo