百色日記 百色日記 SANPO

百色なひと File.07 2018.09.27

大好きだから。
撮りつづけて生まれる「自分色」の写真

尾身沙紀さん │ フォトグラファー

写真を撮ったり見たりしない日はないんじゃないかと思うほど、スマホで、SNSで、もはや誰のものにでもなった感のある「写真」。だからこそ、雑誌やフォトブックでみる写真の圧倒的な違いにハッと気づかされることも。よく見る俳優の、初めて見る表情にドキッとする。ドラマティックな質感とデザイン、予想を超えたファッションの世界に魅了される。風やにおいを感じられる風景に、現実以上に五感が反応する。被写体の魅力を魔法のように増幅させる、そんな写真を撮り続ける人気フォトグラファーの尾身沙紀さんにお話を伺いました。

好きなことが出来る幸せと、自信のなさと

―「SPUR」「FIGARO」などのモード誌や俳優、アーティストのフォトブックなど数々の撮影を手がけている尾身さんですが、どんな風に仕事に臨んでいる?

実は朝から晩まで、写真のことを考えています。海外の写真が好きで、日頃からねこそぎ見ています。だから、いいなと思う写真はどんどんストック。光とか色とか、少しでも気になるものを、カテゴリー別にとにかくたくさん集めています。実際に見てもらわないと伝わらないものもあるので。とにかく写真が好きで、撮っていて楽しくないことがないし、こんなに好きなことが出来て嬉しいなぁといつも思っています。絶対、周りにも楽しそうだなって思われているはず(笑)でも実は自分に自信がなくて、ちゃんと撮れるかなという不安は常にあります。なので、事前準備やどんなポージングがいいか、こうして撮ろうかとか…あれこれ考えますね。でも、撮影現場に入ってしまえば、その場の「直感」が最優先。光や状況は刻々と変化するので。現場でビャッと集中して、自分が100%いいと思うものを撮影します。

やりたいことをやらせてくれた親に恩返ししたい

―写真に興味を持ったのはいつから?

17歳の頃、学校の先輩と鎌倉に遊びに行ったときに、先輩が一眼レフ持ってきていたんです。それを見せてもらったら「すごい!後ろがボケてる!」って、それが衝撃的で。それで、おばあちゃんに一眼レフを買ってもらって写真を撮るようになりました。ちょうど高校卒業後の進路を考えている時期で、普通の大学へ行くのはなにか違うなと思っていたので、写真を学べる学校への進学を決意。卒業後は約3年半、フォトグラファーに直接つくアシスタントを経験。そして28歳になった頃、「もう後には引けない」という気持ちで自分の写真を持って出版社などに営業にまわりました。いろんな人に売り込んでみて、もしダメだったらその時考えればいいんじゃないかと覚悟を決めて。人とのつながりから次第に少しずつ撮影に呼んでいただくようになって、今では写真を撮影する多くの機会をいただいています。家族には自分からの掲載報告はしないんですが、特に父親は、わたしの名前が誌面に大きく出ると大喜びしています(笑)何も言わずにやりたいことを見守ってくれた親には、これからたくさん恩返ししていきたいですね。

自分の思う「大切なもの」をひとつひとつ選ぶ

―好きなことを、しかも直感で妥協なくできているように感じますが?

大好きな写真の仕事のはずなのに、日々を生きるのに精一杯だった時期があって。やっぱりそれではいけないなと。今は自分が100%愛情を注ぎつつ、自分がいいと思うこと、大切だと思うことをひとつひとつきちんと行うようにしています。あと、自分がいいなと思ったものをしっかりカメラに収めながら、あとできちんと理論づけるようにしています。「物事には理由がある」って以前ひとから言われたことがあって。人に説明出来ないとダメ。ひとつの作品があって、その真ん中にこういうコンセプトがあって…という風に。自分の信じるいいものを世の中に出すために、自分の直感を大切にしつつ、きちっと伝えられるようにチャレンジしつづけています。

―仕事、プライベートで大事にしていることを教えてください

わたしは写真が大好きですが、当日上手く撮影できるかどうかは実はいつも不安です。だから撮影前は、コンディションを一番良い状態にしておくために、しっかり寝ます。現場でとても集中するからかいつもグッタリ疲れちゃって、撮影後はものすごく寝てしまいます。なので、大切にしているのは睡眠。それから、休みの日は「ひきこもる」日を作るようにしています。24時間自分のもの、という感じでやりたいことをして、観たいものをしっかり観る。家で過ごす時間を大切にしていますね。あとは、家が好きなので(笑)いいにおいがするものが好きなんです。お気に入りはSoohyangの「Gangnam8」というアロマキャンドル。引っ越し時の部屋のイメージに合わせて、部屋番号を印字したオリジナルラベルをオーダーしたこともあります。

 

―ご自身では自分の作品をどういう風に思いますか?

なんなんでしょう…(笑)自分ではよくわからないんですけど、まわりからは「(尾身さんらしい)色がある」とは言われます。あたたかみのある雰囲気だね、とか。自分としては、まわりにどう見られるか、周囲にとって何がいいか、とかにはあまり重きを置いてないんです。自分が良いと感じる直感を大切にするところもあります。これからももっと精進して、仕事に取り組んでいきたいです。

Interview&Text:TEEMA, INC.(Yoko Okazaki・Yumi Iwasaki)
Photos:Satoru Nakano
Design:MATO INC.

INTERVIEWEE

尾身沙紀 | フォトグラファー

1985年生まれ。アシスタント経験を経て2013年独立。「anan」「SPUR 」「FIGARO」「SPRiNG」など数々のファッション誌やブランドのLOOKBOOK等の撮影を担当。優しい光と透明感のある色彩の世界観でありながら、甘すぎず凛とした強さとほのか色気を秘めた作品に定評がある。

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