百色日記 百色日記 SANPO

百色なひと File.06 2018.08.28

相手の「好き」と「似合う」を結ぶ
ちょうど良いラインを見つけるのが理想です

土田瑠美さん │ Daisy(福岡市大名)/トップスタイリスト

ふわりとまとめられたロングヘアに、上品な白のワンピース。勤務先のサロンから歩いてすぐの和菓子屋に立ち寄った彼女を見て、女将さんとこうした会話が交わされました。
「あら、どこかで見たことあるお顔ね。テレビ?」
「ええ。朝の番組に、ちょっとだけ出演してるんです」
「へえ、すごい。この近くでお勤めなの?」
「はい、すぐそばの美容室です」
女将さんとの会話は、実におだやかで慎ましやか。ターコイズカラーの大きなイヤリングを揺らしながら彼女が笑うと、周りの空気がものすごくやさしく、あたたかくなるのがわかりました。大好きな塩豆大福を買うときは、整った顔立ちがたちまち親しみのある笑顔に変わる。その瞬間、飾らない本当の彼女の姿を垣間見た気がしました。そんなアットホームな光景からは、彼女のめざましい活躍は想像できないかもしれません。

Instagram(@ru0711)に投稿したヘアアレンジ写真が話題となり、フォロワーは今や30万人超と全国的に注目を集めるトップスタイリスト・土田瑠美さん。『ひとつ結びしかできない人のためのヘアアレンジBOOK』(主婦の友社、2018年)などの出版でも話題となった土田さんは、福岡市大名にあるヘアサロン「Daisy」のトップスタイリストとして忙しい日々を送っています。女の子の「かわいい」をつくる土田さんの価値観や生き方とは――。

楽しくないと、できないこと

―美容師になったきっかけは?

中学生のころ、友人が「芸能人のヘアメイクになりたい」って話してて、「私もなりたい!」と思ったのが最初でしたね。かなり不純な動機でしょ?(笑) ただのミーハーだったんです。それから興味が深まってきて、高校生になると自分でヘアアレンジするようになりました。専門学校を卒業して20歳で「SWITCH」(福岡市中央区大名)に就職してスタイリストとして働いていましたが、30歳を目前とした時に「また新しい環境で成長したい」と思い「Daisy」に移ることになりました。

 

―ご結婚されたのはそれから少し経ったころですよね。生活のリズムがかなり変わったのでは?

働き方をオーナーと相談して、17時には仕事を切り上げて帰宅するようになりました。仕事とプライベートのバランスを取るために、休みの日には徹底して休む。掃除や洗濯、料理など家事をして過ごすことが多いですね。旦那さんは飲食業に就いているので、帰りが深夜になることもよくあります。時間を見つけて、たくさん話をするよう心がけています。もともと仕事好きだから、苦にはならないのですが、そのぶん没頭してしまって気付くと休みなしで働いてしまう。疲れがどっと出てしまうことも、昔はよくありました。それで、最近はちゃんと意識的に休むようになったんです。忙しいときももちろんありますが、自分のなかで「無理をしないように」と気を付けていますね。楽しくないと、仕事できないから。

 

―壁にぶち当たることはありますか?

雑誌の撮影が続いたときに、ヘアアレンジのバリエーションが出せなくなったことがありました。新しいアイデアが必要なのに、思い浮かばないし別の仕事もしなくちゃいけない。つねに考えることに追われる状況は辛かったですね。でも、そんな状況でも私はけっこう単純で、友達とお酒を飲んで楽しく過ごすと「よし、明日も頑張ろう」って、一度リフレッシュできて新しいアイデアが湧いてきます。もともと、ストレスをあまり感じないタイプなんでしょうね。そのあと、仕事を辞めたいと思ったことはない。ただ実は、若いころ一度だけ洋服の仕事にも興味が湧いたことがあったのですが「それでもやっぱり美容師が好きだな」って思いました。

アクセサリーを身につけるように

―美容師になる人はたくさんいますが、瑠美さんのように注目を浴びる方はそう多くはありません。他の美容師さんと瑠美さんは、何が違うのでしょうか。

私がヘアアレンジを始めたころは、世間にはアレンジ自体が広まっていませんでした。パーティーや結婚式用の「きっちり・きれいめ」なスタイルだけで、普段のカジュアルな格好に合うスタイルはなかったんです。私のスタイルは、デニムやTシャツみたいなラフな洋服でも合わせられる。それが世間の目に止まったんじゃないかと思います。今何が流行っているのか、みんなが何にアンテナを張っているんだろうっていうのはいつも気にしていますね。街を歩いている人を観察したり、インスタやウェブでチェックしたり。ヘアスタイルだけじゃなくて、ファッションすべてを見ています。20代のスタッフたちと話すのも良い勉強になりますね。

 

―瑠美さんからみた最近のトレンドは?

最近はヘアアレンジもメイクもカジュアルになっていますね。きれいよりもカジュアル、だけどきちんとしたスタイルが流行っている印象です。ヘアアレンジも昔は「特別なもの」だったけど、今はピアスをつけるような感覚で楽しむもの。アクセサリーを身に着けるみたいに、ヘアアレンジを楽しむ時代ですよね。

女の子の「かわいい」のつくり方

―瑠美さんの考える「かわいい」の定義とは。

その人に似合っているかどうか、ですかね。内面が充実している人は「綺麗だな、かっこいいな」と思います。恋をしている人や結婚前の幸せな女性は、お店に入ってきたときの表情でわかります。気分が落ちこんでいる人も、カットやアレンジをしていくうちに元気になっていくのがわかる。その様子を見て、私も元気をいただいています。その人の魅力を見つけて引き出すには観察力も大切なんですよ。髪型に関してはお顔立ちとのバランスを見て、好みはその人と会話しながら探ります。表情をよく観察して、長所を見つける。早口だったら早口、ゆっくり話す方ならおだやかに話しかけて、相手の波長に合わせるよう心がけていますね。髪を触りながら話していると、相手の好みに合ったポイントでお客さまの表情が変わったり、声に出たりする。そこをうまく汲み取って、相手の「好き」と「似合う」を結ぶちょうど良いラインを見つけるのが理想です。

 

―次に挑戦したいことは?

ヘアアレンジを「教える」ことに興味があります。今までは撮影などでモデルさんを相手にアレンジやヘアメイクをすることが多かったのですが、最近はテレビの仕事で一般の方にヘアアレンジの仕方を伝える機会をいただいたんです。うまくできると、目に見えて表情が明るくなる。その変化を見るのがものすごく楽しみですね。アレンジがかわいくできたときは、私の心も、ものすごく満たされますね。いつもの“彼女”より輝いてくれたら、それがなによりのことです。私のヘアアレンジは、誰にでもできるけどおしゃれになれるものばかり。それは、女の子の「できない」をなくしたいからなんですよ。たった5分のアレンジでも、ちゃんとかわいくなれるから。

Interview&Text:株式会社チカラ(Mayu Yasunaga)
Photos:Koji Maeda
Design:MATO INC.

INTERVIEWEE

土田瑠美さん|Daisy(福岡市中央区大名)/トップスタイリスト

福岡市中央区大名にある人気サロン「switch」で約10年間勤務。2009年、29歳のときに「Daisy」に入社。32歳で結婚した頃からInstagramにオリジナルのヘアアレンジを投稿しはじめたところ、ファッション誌の編集者からオファーがあり一躍有名に。現在はサロンワークを手がける傍ら、雑誌やブライダルの現場でも活躍中。

PLACE

Daisy(デイジー)

福岡市中央区大名1-12-6 NEODAIMYO-1 3階
営業時間:11:00~20:00、土日祝日10:00~19:00
店休日:なし

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